
最後に長野市立櫻ヶ岡中学校教諭の中平先生に、「美術を日常化する~必修授業を補完するために~」を演題にご講演いただきました。
中平先生は「美術教育はなぜ必要なのか」ということに言及し、次のようにまとめています。
・よりよい自分になろう、よりよい社会を築こうという気持ちを形で表現できる。したがって、そういった心情を授業の中で肯定しやすい教科である。・・・よりよい社会人へつながる。
・新たな「肩書き」を得やすい教科である。・・・不登校を増やさない対策につながる。
美術を通して、それまでその子のイメージを変えるきっかけをつくることができる。
・「ものづくり」を超えた「こと作り」、「社会づくり」など、プロデュースする力の目を育てることが授業の工夫次第で可能。・・・クリエイディブな心を育てる。
中平先生は、「美術はおもしろいものだよ」ということを何とか生徒に知ってもらいたいという強い思いをもっておられます。最近の中学生は内向的になっているので、やれといわれたら、けっこうやります。してはいけないことはやらない。価値観の幅が狭いのです。そして、「まじめ」「正しい」などの座標軸が幅をきかせています。でも、「間違っているけど楽しい」などというように、「面白い」「楽しい」という座標軸がなかなか広がらないのが現状です。自分で決めてやってみろというのが苦手です。依存心が強くなっているのです。「自分で目標を決める。自分で解決方法を考える。」本来それは、楽しい活動であり、表現したいというモチベーションを高めるものでもあります。
中平先生は、授業をスパイラルで考えています。115時間を1題材と考えるのです。3年生の最後には、卒業制作をさせるそうです。すべての題材が、鑑賞→遊び的題材→技能習得題材→テーマから自由に発想する題材→相互鑑賞 という形で構成されています。ただ何もないところに「とにかくやりなさい」というのではなく、しっかりと武器をもたせ、意欲と感心を高めておいて、卒業制作につなげるのです。
しかし、いろいろやっていても、必修授業の限界を感じてきました。どうしても子供は受動的になってしまう。どうしたら美術室を出てからも、美術スイッチをオンにすることができるか。美術を日常化するためのアイディアがないか。そのために考えたのが次の二つです。
1学校を舞台としたアート・プロジェクト
2校舎内にフリーギャラリーを設置
アートプロジェクトでは、アーティストが生徒の意向を聞いて作品を仕上げていくのです。最初のイメージよりも、話を進めていく中で作品がよくなったときに、がぜんやる気を出します。やりとりの中で、アーティストと子供たちが自然に触れ合っていく。単なる職業体験とはまた違った主体的なものになります。とがびでは、幼稚園、小学生、中学生、高校、大学、アーティストと、1本筋の通ったものが一堂に展示されます。そうすることで、生徒が自分の表現と他の表現を比べ、現在の自分を見つめ、そして将来を考えるときに非常に役立つのです。
アートプロジェクトは、あくまでも必修授業を「補完」するものであり、それによって必修授業をなおざりにするものではありません。ものを使ったコミュニケーションが美術やアート特有のものであり、いままでコミュニケーションができなかった子に、何か美術を使うことでできるのではいかという考えがプロジェクトを行うきっかけになっています。
アートプロジェクトを経験した中学生に高まった意識として、次のようなものがあります。
・美術に興味がわいた
・自分から社会に発言する力がついた
・コミュニケーションの楽しさを感じた。
・想像力や発想力がついた
また、一年間フリーギャラリーやおまけ企画を行うプロジェクトの可能性には次のようなものがあります。
・話題性がある。・・・美術室外での美術的な話題をつくりだすことが可能。美術スイッチをオンにする。
・様々な素材を扱ったり、多様な表現方法にふれたりすることができる。・・・表現の幅、発想の幅を広げる。
・美術部以外、美術が得意な生徒以外の意欲をもった生徒たちを取り込みやすい・・・視野を広げる。
・スペースが狭く、展示労力が少なくてすむので、教師の疲労が少ない。・・・継続が可能。どのような学校の実情にも比較的対応できる。
→必修授業や学校生活へのよい影響を期待。
最後に「美術を日常化する」ために次のようにまとめていただきました。
必修授業を核とし、授業を補完するプチイベントや仕掛けを美術教師が企画し、積極的に行っていく。日常的に非日常的な空間を受け入れ楽しむことができる体質ができてくる。すると、おもしろいことを面白いと楽しめる生徒の育ちが期待できる。発想力と実行力。話題性、鑑賞力、材料感、やってみたいという意欲、よい意味でのエスカレート現象がある。
生徒や他教科の教師が、美術でのきっかけにより、新たな自己表現の武器と出会い、美術的な発想方法や問題解決の手段が学校生活の中で生かされていく。それが美術を日常化するということではないだろうか。
大変すばらしく、貴重な話、本当にためになりました。中平先生、ありがとうございました。